大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

最高裁判所第一小法廷 昭和32年(オ)278号 判決 1958年12月11日

上告人 内山祐市

被上告人 滝口俊之助

主文

本件上告を棄却する。

上告費用は上告人の負担とする。

理由

上告代理人弁護士成田篤郎の上告理由第一点について。

親権者である訴外東条彦男が自己と共同所持人の関係にある未成年の子を代理して本件手形を他に譲渡する行為は、親権者と未成年者との間に利益相反する行為とはいえない。従つて、原判決が、同人は、親権に服している和夫及び三雄両名については法定代理人の資格をもかねて本件手形を譲渡した旨判示しただけで、所論特別代理人の同意につき何等説示しなくとも違法であるとはいえない。

また、受取人白地の手形所持人は、受取人欄白地のまま単なる交付によつてこれを譲渡しうるものであるから、原判決のこの点に関する所論判示は正当である。それ故、所論は、すべて採るを得ない。

同第二点について。

原判決の債務免除の抗弁についての証拠判断は、正当であつて、実験則に反する点は認められない。論旨は、結局原審が適法になした事実の認定ないし証拠の取捨、判断を非難するに帰し採るを得ない。

よつて、民訴四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官全員の一致で、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 斎藤悠輔 裁判官 入江俊郎 裁判官 下飯坂潤夫 裁判官 高木常七)

上告人代理人成田篤郎の上告理由

第一点原判決は法令違背の不当がある。理由次の如し。

(イ) 原判決理由中、前略「東条春子は本件手形の白地を補充しないで昭和二十七年三月二十日死亡し、同人の夫東条彦男、同人の子俊雄(昭和七年六月一日生)、和夫(同十年二月八日生)、三雄(同十六年十一月十二日生)四名がその遺産を共同相続し、本件手形所持人となつたこと、東条彦男は同二十九年八月頃共同相続人俊雄の同意を得、親権に服している和夫、三雄両名に付ては法定代理人の資格を以て本件手形を裏書の方式によらないで被控訴人に譲渡したこと及びその後被控訴人はおそらく同月二十五日までには本件手形に受取人として自己の氏名を記載し白地を補充したことが認められる」と判示し右の手形を法律上有効の旨判断した。

(ロ) 乍併第一に昭和二十七年三月二十日相続開始時に於ける東条俊雄は未成年でありその他、和夫、三雄は同一であつたこと前記判文上明白であり得るがその手形上の相続分として民法第九百条の規定により各所有債権額を分割される。しかして右手形は同二十九年八月頃被控訴人に譲渡されているとすれば東条俊雄は成年者でその同意を得たとするも、和夫、三雄の二名は未成年者なるより親権者たる父彦雄は法定代理人として単純に譲渡出来得るものではなく未成年者と利益相反行為として特別代理人の同意を得るを要するに不拘この点に付き原判決は何等説示することなく右彦雄の譲渡を有効と判示したのは不当である。

(以下省略)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例